二十話
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「失礼します」















――――六番隊隊首室









そこに広がるのは異様、というより酷く珍しい光景だった。






真正面の机についているのは、当然ながら隊長である白哉。












そして、部屋の中にある長椅子にかけているのが見知らぬ――おそらく――男。




白い隊長という位を示す羽織。

機械のような人を思わせないような出立ち。

長椅子に座っているせいで、背中の文字が見えないので何番隊かはわからない。


その座っている人物の傍らに控えていたのは、三つ編みをした女性。

丈の短い死覇装を着ていて、大人しそうに見える。



残るは、先ほど部屋に入ってきたは状況把握があまり出来ていなかった。

それを察した白哉が口を開く。




「…十二番隊の一席と二席だ」




白哉の言葉を聞いて、そこにいるのが十二番隊隊長の涅マユリと副隊長の涅ネムだとは理解する。

顔は見たことはなかったが、名前だけは知っていた。

この隊長を葦鬼があまり好きでないと言っていたことも思い出す。




「私が呼ばれた理由は何故でしょうか?」




は、マユリから白哉に視線を戻し、問うた。






近頃はこれといって失態は犯していないはずだ。













そうなれば、自分で気付かぬ内に犯したミスか、あるいは―――……異動か。




























「私が君に用があったのだヨ」













言ったのはマユリ。




「…異動…ですか?」


「ククッ……、まぁ異動でも良いのだがネ」


「…人材派遣…とかでしょうか…?」




そう言っては白哉に視線を向ける。

白哉は、一言言った。




「そのようだ。名指しでな」


「…何故、」


「お前でなければ意味がないのだヨ!」




突然のマユリの発言に、は耳を一瞬疑った。








この人物の前で気に入られるような何かをした覚えはない。

ましてや、他の隊に届き渡るような功績を挙げたこともないはずだ。















――………わからない……






















「…そうそう…、これを確認しておかないいけないナ」




納得のいかないに向かい、マユリは口を開いた。

はマユリの発言に、何かと思い視線を向けた。


















「傷は、あるナ?」






その瞬間、己の体温が一気に下がった気がした。















「その身体に…」






































「どんなに時間を経ても消えないような……」





















































「大きな、傷跡だヨ」























心臓音がやけに煩かった。


顔に色は出ていないはずだが、手に滲む汗が止まらない。











話を聞いている白哉は何を言っているのか、よく分かっていない様子だった。

それが普通なのだ。

このことは誰も知らないはずなのだから。






否、ただ1人を除いては。



















四番隊隊長  卯ノ花 烈























―――――…………まさか、…


















「あるのだろう?どうなのかネ?!」








マユリの言葉に、頭を巡っていた思考から離れる。

はゆっくりと口を開いた。

















「ありません」






















「……、何?」





















「そのような傷跡など知りません。何故、私にそのような事を問うのか…、理解しかねます」

















驚いた。










自分でも驚くほど、落ち着いた声、言葉が出てきた。









それを聞いたマユリは、僅かに目を細めた。




「………ホゥ…?」




はマユリの目に怪しい光が宿ったのを自分のことに精一杯で気付くことが出来なかった。

早く出ていってくれと、自分を放っておいてくれ、と願うばかりで。




「では、少し確かめることとしようカ」


「…え…、?」








気付いたときには、時既に遅し。

マユリは瞬歩を使い、一瞬の内にの背後に回った。

驚いたがマユリから遠ざかろうとするが、それは叶うことはなく、難なく捕らえられ床に抑え付けられる。




「?!!」


「大人しくしていたまえ。確認するだけだヨ」




マユリの指は、の死覇装の襟元にかかっていて、











「や、やめっ…!!」






























指が引かれるのと共に、晒されたのはの肌。







そして、サラシに覆われていないその肌に見えるのは、






















――――………大きな傷跡
























「これは何かネ?!」




マユリは、さも嬉しそうな声を上げた。

死覇装が降ろされ、露になった肩。

背に空気が触れ、冷たい。

それよりも、傷跡が空気に晒され、熱く感じてしまう。




「素晴らしい!傷が脈を打っているヨ!こんな怪我、見たことがない!!」




は、嫌な予感がした。

ただでさえ、見せたくもないこの傷跡。




この者は、それを実験材料にする気なのか。





十二番隊隊長の噂ならたまに耳にする。

二代目技局長で、初めて見たモノは何でも材料にする。









そんな、男だと。























「私に、…触るな!!!」
















気付けばそんな言葉を発していて、マユリの手を力一杯拒絶していた。

どうにか抜け出たの手は、死覇装を整えるかのように、両裾を握ってた。

力一杯にマユリをその深い蒼で睨みつけていた。




マユリはゆらりと、を見る。

喉の奥で低く笑っている。




「その傷跡…、それを求めていたのだヨ!!」





マユリは再度、に掴みろうとする。













すっかり動揺し、冷静さを失ったは動くことが出来なかった。





しかし、マユリの腕はに降りることなく、宙で止まっている。











そのマユリの腕にはもう1人、別の人物の手が見えていた。















はその人物を目を見開いて見ていた。

















「兄は、私がいることを忘れてはないか?」











マユリの腕を捕らえていたのは白哉。

その手はその時のにとって、救いそのものだっただろう。

マユリは忌々しそうに、白哉を睨んだ。

白哉はそれに動じず、静かにマユリを見下ろしている。




「は私の部下だ。好きにされては困る」


「…、フンッ…仕方ない……今は引いておこう…」




マユリは白哉の手を振り払い、出口へ向かう。

ネムは急いでその後を追った。









圧迫していた空気が、スッと抜けた感覚がした。

は、壁に背を預け、ゆっくりと息を整えていている。

死覇装を元のように整え、深く息を吐く。




「、お前は……」


「朽木隊長」




白哉の言葉を、は静かに遮った。

やっと落ち着きを取り戻したらしく、声の調子がいつも通りだった。

は、顔を上げ、白哉を見て言った。









「さっきこの場であったこと……見なかったことにしてはくれませんか?」
















「…何?」















「私の背に刻まれたもの、あれを見なかったことにしていただきたいのです」










白哉は察した。





先ほどの蕎氷の拒絶のしよう。

この言葉。



はあの傷跡の存在を他人に知られるのを拒んでいる。

故に、今見られたものの存在を消そうとしている。

何故そうまでしたいのかはわからない。





しかし、あの十二番隊隊長の酷く興味を惹いたもの。

ただの傷跡ではないのだろう。

あの大きさ、鮮明さ。

明らかに、普通の傷ではなかった。













「あぁ…、かまわぬ」






「出来れば…、人材派遣の件も…」







「わかっておる。私の方から断っておく」
























「ありがとうございます」












この時は、心の底から感謝した。

だから、心なしか顔にその色が出ていたかもしれない。




は白哉に向け、深く頭を下げた。




「もう良い。今日は上がってかまわぬ」


「はい。では、失礼します」




再度、は頭を下げ、隊首室を後にした。






































ダンッ














は思いっきり、人気のない庭の木を殴りつけた。


眉はきつく寄っていて、殴りつけた拳も同じようにきつく握られていた。






まさか、勘づかれていたとは思わなかった。

卯ノ花に見られたときから警戒しておくべきだったのだ。

卯ノ花でなくても、他に見ていた、聞いていた者がいたかもしれない。




間違いなく自分の失態だ。

よりにも寄って、マユリにバレるとは。



しかも、白哉の目の前で晒した。

バレたくない同じ隊の隊長にも知られることとなった。

広まってしまうのも時間の問題だ。










どうしても、だけには…、知られたくない。

















「……早々に、終わらせるしか……ないのか、…」




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あとがき


マユリ様とネムと兄様に傷のことがバレた!!
ていうか、このシチュエーションどっかで見たことありますね!(笑顔
後ろから腕を掴んで、守ってくれる(?)シーン。


悔しいヒロイン。
恐怖とともに、悔しさもあったのでは、と思います。
頑張って成長させます。


今日はマユリ様メイン…?
兄様とヒロインがすこし絡めてよかったです。

見事にヒロイン1オンリーでした(笑