二十一話
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「すみませーん。ぎっくり腰で倒れていたお婆さんを家まで送ってたら遅くなりましたー」
「… 。寝坊で遅刻、と」
更木が顔も上げず、の声だけ聞いて名簿のようなものに書き加えた。
「人の話聞いてですか?!親切にギックリ腰になっていたお婆さんを家まで送っていったんですって!」
「テメェなぁ…。毎度毎度まったく同じ嘘つきやがって、バレバレなんだよっ、ボケが!!」
「間違えました。お爺さんでした」
「もー良い!!さっさと行け!!!」
出勤時刻を数時間過ぎた隊首室での出来事。
ここ十一番隊の隊長とその隊員のやりとりである。
並の者ではこの更木剣八と対等に会話をするなど絶対にありえない。
が、はこの図太い神経から、それをやってのけることが出来るのだ。
「ちゃーん。いっけないんだー!」
「副隊長ー。おはよーございまっす」
「おはよー!」
やちるは、にこっと笑っての背に張り付くように、ぶら下がる。
これは日常茶飯事なので、は気にすることなく歩く。
「副隊長っていっつも背中ッスね」
「だって、こうするとみんなと同じ高さの視線でしょ!」
「あ、なるほど」
納得したように頷いて、は詰所の扉を開く。
そこでは思いもしなかったものを目にした。
「……………、あ?」
ヤケに目に付く結い上げられた赤髪。
額から首まで流れる刺青。
190に届きそうな長身。
阿 散 井 恋 次
確かあいつは五番隊ではなかったか。
記憶が正しければそのはずだ。
可笑しい。
「おー、ー。お前、また寝坊かよ」
陽気に話しかけて来たのは、一角。
は恋次から意識をそちらに向ける。
「違ぇーよ!ぎっくり腰で動けないお爺さんを親切に家まで送ってたんだよ!!」
「まーたその言い訳かよ!!いい加減諦めろ」
「事実デス」
「相変わらず頭の足りねぇ奴だな…」
「テメェ!!ハゲの癖にっ」
がそういうと、一角はクワッと喰ってかかってくる。
「ハゲじゃねぇよ、自分で剃ってんだよ!!」
「お前こそ言い訳じゃねーのか?!ハーゲ、ハーゲ!!!」
この言い合いは日常茶飯事。
それを分かっているやちるは楽しそうに、たまに口を挟む。
弓親は苦笑したり、度が行き過ぎると止めてみたり。
他の隊員たちは見て見ぬフリをしていた。
そして、2人が斬魄刀を抜こうとしたそのとき、
「あっ!!ちょっと待て!」
「あぁ?怖じ気づいたか?」
「違ぇーよ!馬鹿!!今日は新人が来てんだよ!」
つまり、紹介しとくのを忘れていた、と。
は眉を顰めながら、刀を下ろす。
一角がおーい、と言うと目に入ったのは、またあの赤髪だった。
「阿散井だ。五番隊から異動だとよ。今日からここの一員。朝言ったのにお前はいなかったから…」
「…マジで?恋次が?異動?!」
「そうです。よろしくお願いします」
「んだよ、テメェら知り合いか?」
「え、あ、まぁ…」
恋次が曖昧に言うと、なら話は早ぇな、と一角は1人頷いていた。
は、錯覚じゃなかったのか、とぼんやりと考えていた。
「知り合いならさー、この子の世話、ちゃんに任命しちゃおー!」
「……は?」
我ながら間抜けな声が出たと思う。
やちるは、タンッとの背から降り、地に立ってこちらを指差して言った。
「ちゃんは、少しの間、新人のお世話係ー!けってー!!」
「なっ、ちょっと、何言って…!!」
冗談ではない。
そんな新人の世話役など、面倒事以外の何でもない。
「副隊長命令ですっ」
「…ぐ、…」
職権乱用だ、とは内心毒突く。
遅刻に言い訳をするが、上司の命令を無視するほど不良でもないは仕方なくそれを受ける。
視界の隅に一角が肩を震わせて笑い堪えているのが見えたので、腹いせに蹴りを一発入れてやる。
「って!!、テメェ!!」
「それじゃ、失礼します。斑目さ・ん・せ・き。オラ、何ボサッとしてんだ。来いよ、恋次!」
「え、あぁ、はい!」
は恋次を引き連れ、さっさと出ていってしまった。
一角は扉向かって未だ吠えていた。
「一角。みっともないよ」
「うるせぇ!黙ってろ、弓親!」
「大体君が悪いんじゃないか…。笑ったりするから」
弓親が呆れ気味に言う。
「そーだよ、つるりん」
「つるりん言うな、ドチビ!!」
「それにしても、とあの新人のコンビ、面白いね」
「は?何処がだよ」
面白そうに笑う弓親に向かって、一角が言う。
やちるも一角と同じような視線を弓親に送っていた。
弓親はクスクスと笑って見せる。
「赤コンビ。新人は髪が赤かっただろう?は目」
「あー…、確かに」
「でも、あの紅の瞳は美しいよね。僕あの目大好きだよ。血の色みたいで」
「お前が言うと何か、微妙だ。なんか病んでるみてぇだぞ」
「どういう意味さ、それ」
「あのー…、何処向かってんスか?」
の後ろをただ付いて歩いている恋次が問うた。
「まぁ、着けば分かる」
「……はぁ…」
そして、黙々と歩くこと数分後。
着いたそこは広い道場のようなところ。
鍛錬場だった。
「「「「「「姐さん!お勤めご苦労様ッス!!!」」」」」」
「おー、テメェら!新人だ!」
十一番隊だと思われる複数の隊員の異口同音の声に呆気に取られていた恋次の背をは力一杯叩き、前に出した。
は恋次の背をペしペしと叩きながら続けた。
「こいつに気合い入れてやれ!!手加減は入らねぇからな!」
「んな?!」
「わかりやしたぁ!!」
「オラ、来いや新人!!」
「え、えぇ?!ちょっと…!」
恋次が十一番隊の隊員たちにより奥の方へ引きずられていく。
はそれを満足そうに見送ると、適当な場所へ腰を降ろす。
頼まれたからには、一応同じ場所にいなければならないだろう。
それなりに出来る方ではないか。
そう思ったのは、恋次をここへ連れてきて数分経ったときだった。
十一番隊の連中の相手を普通にこなしている。
五番隊にいたのだから、そんなに戦闘能力は高くないのでは、と思ってはいたが。
鍛錬は欠かさずやっていたのだと分かる。
何となく感心して、視線をどことなく泳がせていると、とあるものが目に映る。
高くはない背丈に特徴的な髪型をした黒髪の死神。
「…」
はポツリと呟き、鍛錬場の窓からその姿を眺めた。
悠々と歩くその姿。
近くにいても感じるが、遠くから見ても、その誰も寄せ付けないような冷たい雰囲気は変わらない。
の傍らには別の死神が付いていた。
最近仲良く、というか懐かれているらしい。
ルキアという少女だ。
ここのところ、自分よりもルキアの方が共にいる時間が長いのでは、と思うことがある。
仕事が重なり時間が合わないのは仕方ない。
仕方ないのだが、後で出てきた者にを取られた感じがしてならない。
は頬杖を付いて溜息を1つ。
「何か…、ジェラシー…」
眉を顰めながら、また溜息を吐く。
女が女にジェラシー感じてどうするんだ、という心境でもあるが今は結構どうでも良かった。
に仲の良い死神が出来るのは微笑ましい。
微笑ましいのだが。
やはり、良い気はしなかった。
「あー…もー…、俺はあいつの彼氏か何かっつーの……」
軽く自己嫌悪にも陥ってみたり。
「…殿…、最近寝ておられないのですか?」
「……何、?」
いきなり言ってくるルキアに、は怪訝そうな表情で聞き返した。
ルキアは、ぎこちなく言い始める。
「…顔色が…あまり優れていないと思ったので…」
それを聞いて、は若干眉間に皺を寄せる。
葦鬼にも口を出された事だ。
顔色があまり良くない、と。
正直、最近になって無理をしているというのは事実だ。
焦っているのは自分でも自覚している。
急がなければ、と。
あの十二番隊の隊長に知られてしまったのだ。
他にも広まってしまわない、という保証はどこにもない。
にバレない、という保証も。
彼女には、知られてはいけない。
自分のためなら何をしても良いと言う彼女には。
きっと、危険な目に遭わせてしまうだろうから。
自分のために、傷つけたくは、ない。
「…殿…?」
「…何でもない。顔色も気のせいじゃないのか」
言っては歩調を速める。
ルキアは慌ててそれに合わせた。
「あの、変なこと言ったのなら謝ります…!」
「…謝る必要などない」
「あ、…はい、…」
ルキアの声のトーンが僅かに落ちた。
普段ならすぐに気付くのだが、今のはそんなことに気を回す余裕もなくて。
これでは、にすぐに察知されてしまう、と僅かに焦りはじめた頃だった。
前方のほうから1人の死神が近づいてきた。
はその死神を見て、足を止める。
覚えのある顔。
六番隊に所属している死神であった。
その青年の死神はを見つけると、声を上げた。
「殿!」
は官席についておらずとも、実力はある。
それを知っているが故に、に尊敬の眼差しを送る者もいた。
この青年もその1人である。
しかし、話したことなどほとんどない。
そのことから、何かしら伝言でもなるのだろうか、と判断した。
「何かあったか?」
「お伝えしたいことが…」
はルキアを一度見、また青年に視線を戻す。
「聞かれても支障のない話か?」
「はい。かまわないかと…」
「なら今聞こう」
「伝言というのは…、朽木隊長からでして…」
はそれに眉を顰める。
まさか、と。
是非とも違っていて欲しいものだ。
しかし、そのの僅かな期待は呆気なく崩された。
「隊首室へ出向け、とのことです。話したいことがある、と」
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あとがき
すいません。久々過ぎですね。
しかも、短い…;
恋次、十一番隊に行かせました。
これで進めやすくなればな…。
次回にヒロインの過去っぽいのが出てくるのでは、と。